
2026年に「医療ソーシャルワーカー業務指針」が23年ぶりに改定されました。
少子高齢化の進行や在宅を含めた医療・介護サービスの需要の拡大、地域包括ケアシステムの推進など、医療を取り巻く環境が大きく変化する中で、医療ソーシャルワーカー(以下、MSW)に求められる役割も変わりつつあります。
今回の改定では、退院支援や地域連携に加え、「患者本人の意思決定支援」や「地域共生社会への対応」などがより明確に示されました。
これは、MSWだけではなく、退院支援部門や地域連携室、医療事務を含む病院全体にも関わる変化と言えます。
一方で、厚生労働省の通知や会議資料は専門的な内容も多く、
- 「そもそも業務指針とは?」
- 「何が変わったの?」
- 「病院実務にはどう影響するの?」
と感じている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、医療ソーシャルワーカー業務指針の概要や、23年ぶり改定の変更点をわかりやすく整理しながら、病院実務への影響についても解説します。
目次
医療ソーシャルワーカー業務指針とは?

「医療ソーシャルワーカー業務指針」とは、医療機関で働く医療ソーシャルワーカー(MSW)の役割、業務の範囲や方法等を示した厚生労働省の通知です。
MSWは、患者さんや家族が抱える心理的・社会的・経済的な課題に対して支援を行い、安心して医療を受けられるようサポートしたり、社会復帰の促進を図る役割を担っています。
例えば、
- 退院支援
- 転院調整
- 医療費や生活費に関する相談
- 介護保険や福祉制度の利用支援
- 地域連携
などが代表的な業務です。
医療機関では、高齢化の進行や在宅医療需要の拡大に伴い、医療だけでなく「退院後の生活」まで見据えた包括的な支援が求められるようになっています。
そのため、厚生労働省は医療ソーシャルワーカーの役割を整理した「業務指針」を示しており、今回、2002年以来およそ23年ぶりに全面改定が行われました。

MSWは、国家資格である「社会福祉士」の資格を持っている人だ、というイメージを勝手に抱いていましたが、資格がなくてもMSWとして働くことは可能なんですよね。そうはいっても、「社会福祉学を基にした専門性を十分発揮し業務を適正に行うことができるよう」に、国は社会福祉士が医療ソーシャルワーカーを担うことを想定して、この業務指針を作成したようです。
なぜ23年ぶりに改定されたのか

医療ソーシャルワーカー業務指針が改定された背景には、日本の医療や地域社会の大きな変化があります。
特に近年は、高齢化の進行や医療需要の変化に伴い、病院だけで医療が完結する時代から、「地域全体で患者さんを支える」方向へと医療提供体制が変化しています。
例えば、
- 在宅医療需要の拡大
- 地域包括ケアシステムの推進
- 独居高齢者の増加
- 身寄りのない患者への対応
- ACP(アドバンス・ケア・プランニング:人生会議)など意思決定支援の重要性
など、患者さんを取り巻く課題は複雑化しています。
また、退院支援や在宅復帰支援では、病院内だけでなく、
- 訪問診療
- ケアマネジャー
- 介護施設
- 行政
- 地域包括支援センター
など、多職種・多機関との連携も欠かせません。
こうした背景から、厚生労働省は従来の業務指針を見直し、医療ソーシャルワーカーに求められる役割を改めて整理しました。
今回の改定では、従来の退院支援や相談・援助に加え、「患者本人の意思決定支援」や「地域共生社会の実現」などもより重視されています。
医療ソーシャルワーカー業務指針の「8つの役割」

2026年の業務指針改定では、医療ソーシャルワーカー(MSW)に求められる役割が、従来よりも実践的かつ具体的に整理されました。
特に今回の改定では、
- 患者の意思決定支援
- 入退院支援・療養支援
- 社会生活と治療の両立支援
- 地域共生社会の実現
などが明確に位置付けられています。
また、厚生労働省通知では、本指針は「医療ソーシャルワーカーに関する基本的事項」を示したものであり、実際の業務では日本ソーシャルワーカー連盟の「ソーシャルワーカーの倫理綱領」や、日本医療ソーシャルワーカー協会の「医療ソーシャルワーカー業務基準」等を適宜参照することが明記されています。
つまり、今回の業務指針は、
- 国としてMSWに何を期待しているのか
- 医療機関におけるMSWの役割をどう整理するのか
を示した“方向性”として読むことが重要です。
改定後の業務指針では、MSWの役割・活動は次の8項目に整理され、MSWに求められる役割・活動が、従来よりも具体的かつ体系的に整理されました。
| 役割・活動 | 概要 | 旧指針との主な違い |
|---|---|---|
| 意思決定支援 | 患者にとって最善の医療・ケアが受けられるよう意思決定を支援する | 今回新たに明確化され、最上位に位置付け |
| 心理的・社会的課題解決への支援 | 患者が安心して療養生活を送り、ウェルビーイングを高められるような支援を行う | 「療養中の心理的・社会的問題の解決、調整援助」を再整理 |
| 入退院支援・療養支援 | 入退院前後の療養環境、生活の調整や課題解決に必要な支援を行う | 「退院援助」から支援範囲が拡大 |
| 社会生活と治療の両立支援 | 仕事、学業、育児、介護等と治療の両立を支援する | 社会参加と治療継続の両立支援の視点を明確化 |
| 受診・受療支援 | 患者が必要とする治療を適切に受けられるよう受診・受療を支援する | 患者自らの意思に基づいて治療を選択し、継続的な医療アクセス支援を整理 |
| 経済的課題の把握と解決に向けた支援 | 患者・家族等が活用できる行政サービス等について適時適切に紹介や案内をする | 経済的課題への支援を改めて整理 |
| 組織内活動 | 共通課題を組織的に解決するための医療機関内の体制整備や業務の標準化を図る | 組織的役割が新たに明文化 |
| 地域・社会活動 | 地域の関係機関、関係職種等と連携および協働する | 地域連携・地域共生の視点を強化 |
今回の改定では、従来の「相談援助」や「退院支援」に加え、
- 患者本人の意思決定を支える役割
- 医療と生活をつなぐ役割
- 院内外の多職種を調整する役割
などが、より明確に位置付けられました。
また、「組織内活動」や「地域・社会活動」が整理されたことで、MSWには個別支援だけでなく、病院組織や地域との連携を含めた幅広い役割が期待されていることが分かります。
特に病院実務では、医療ソーシャルワーカーは入退院支援部門や地域連携室のスタッフとして、院内の多職種だけでなく、行政機関、介護施設、他医療機関、地域包括支援センターなど院外の関係機関とも連携しながら支援を行う場面が多くあります。
そのため、今回の業務指針改定はMSWのみの問題ではなく、病院全体の連携体制や患者支援のあり方にも関わる内容と考えます。
今回の改定で特に重要な変更点

今回の改定では、単に役割項目が増えただけではなく、医療ソーシャルワーカーに求められる役割そのものが、現代の医療提供体制に合わせて再整理されています。
特に、
- 患者本人の意思決定支援
- 入退院を通じた継続的な療養支援
- 病院内外の連携・調整
- 地域で生活を続けるための支援
などが、これまで以上に重視される内容となっています。
ここでは、今回の改定の中でも特に重要と考えられる変更点を整理します。
「意思決定支援」が最上位に位置付けられた
今回の改定で特に注目されるのが、「意思決定支援」が最初に位置付けられた点です。
旧通知では、「療養中の心理的・社会的問題の解決、調整援助」が最初に示されていましたが、今回の改定では、患者本人の意思形成や意思表明、意思決定を支える役割が最上位に整理されました。
これは単なる項目順の変更ではなく、患者本人の価値観や希望を尊重しながら支援を行うことが、医療ソーシャルワーカーの重要な役割としてより明確化されたものと考えられます。
近年は、ACP(アドバンス・ケア・プランニング:人生会議)など、患者本人の意思を尊重した支援の重要性が高まっています。
また、高齢化の進行や医療の高度化に伴い、患者本人や家族が複雑な選択を迫られる場面も増えています。
そのため、MSWには単に相談援助を行うだけでなく、患者本人の思いや生活背景を踏まえながら、多職種と連携して意思決定を支援する役割が求められるようになっています。
特に病院実務では、退院支援や療養方針の調整、家族支援などの場面で、医師・看護師・医療ソーシャルワーカー・医事課等が連携しながら支援を行うケースも多くあります。
今回の改定は、こうした現場の実情を踏まえ、「患者中心の医療」をより重視する方向性が明確に示されたものであるといえます。
「退院援助」から「入退院支援・療養支援」へ拡大
旧通知では、「退院援助」という形で整理されていた役割は、今回の改定で「入退院支援・療養支援」へと見直されました。
これは単なる名称変更ではなく、MSWに求められる支援の範囲が、退院時だけでなく、入院前から退院後の生活まで含めて整理されたことを意味しています。
近年は、
- 高齢患者の増加
- 在宅医療需要の増大
- 早期退院の促進
- 独居高齢者や老老介護世帯の増加
などにより、入院中だけでなく、退院後の生活や地域での療養継続まで見据えた支援の重要性が高まっています。
また、病院実務においても、入院前支援や退院調整では、
- 医師
- 看護師
- コメディカル
- ケアマネージャー
- 介護施設
- 他医療機関
- 地域包括支援センター
など、多職種・多機関との連携が必要となる場面が増えています。
今回の改定では、こうした現場実態を踏まえ、MSWの役割が「退院時の援助」だけではなく、療養生活全体を支える支援として整理された点が大きな特徴といえるでしょう。
今後は、MSWには「退院を調整する役割」だけではなく、患者さんが地域で生活を続けていくことまで見据えながら、多職種・多機関と連携して支援を行うことが、これまで以上に求められていると言えます。
「組織内活動」が新たに明文化された
今回の改定では、「組織内活動」が新たに役割・活動として整理された点も大きな特徴です。
旧通知でも、MSWが院内で多職種と連携しながら支援を行うこと自体は前提となっていましたが、今回の改定では、医療機関内での連携体制整備や調整機能が、MSWの役割としてより明確に位置付けられました。
近年は、高齢患者の増加や患者背景の多様化により、患者支援をMSWだけで対応することが難しくなっています。
そのため、院内カンファレンスや支援方針の調整、入退院支援体制の整備など、患者支援を組織的に進めるための調整機能も重要となっています。
実際、MSWが転院調整の状況や支援方針、患者さんや家族等に係る情報の共有等を行うケースも少なくありません。
今回の改定では、こうした実態を踏まえ、MSWが組織内で果たす調整機能や連携支援の役割が、これまで以上に重視されたものと考えられます。
今後は、個別支援だけでなく、病院全体として患者支援をどのように行うかという視点の中で、MSWが多職種連携の中心的な役割として関わっていく場面もさらに増えていくと考えられます。
「地域・社会活動」の位置付けが強化された
今回の改定では、「地域・社会活動」が役割・活動としてより明確に整理された点も重要なポイントです。
旧通知でも「地域活動」は位置付けられていましたが、今回の改定では、地域共生社会の実現や地域生活支援を意識した内容へと整理されています。
昨今の高齢化や在宅医療需要の増加に伴い、退院後も地域での生活を続けながら療養を望むケースが増えています。住み慣れた自宅での療養を希望する患者さんに対しては、地域全体で治し、支える医療提供体制(地域包括ケアシステム)の構築が求められ、患者さんを中心として医療機関や行政等と連携および協働をしていくことが必須となりました。
そのため、入院中の支援だけでなく、退院後の生活や在宅療養まで見据えながら、地域全体で患者さんを支えていく視点の重要性も高まっています。
また、患者さん本人だけでなく、家族支援や地域全体での支援体制づくりが求められる場面も少なくありません。
その中でMSWには、地域の関係機関との連携や支援体制づくりを調整する役割も求められています。
今回の改定では、こうした現場実態を踏まえ、MSWが地域とのつながりを支える役割についても、これまで以上に重視されたものと考えられます。
今後は、医療機関内での支援にとどまらず、患者さんが地域で生活を続けていくために、地域全体でどのように支えていくかという視点の中で、MSWが関わっていく場面もさらに増えていくと考えられます。
業務指針の改定は、医療政策や診療報酬改定とも関係している

今回の医療ソーシャルワーカー業務指針の改定は、MSWだけに関係する内容ではなく、近年の医療政策や診療報酬改定の方向性とも大きく関係しています。
例えば、令和8年度診療報酬改定では、
- 身体的拘束最小化の推進
- 意思決定支援の重視
- 入退院支援体制の見直し
- 地域連携の強化
など、患者さんを多職種・多機関で支える方向性がより明確になっています。
実際に、身体的拘束最小化推進体制加算の新設や、身体的拘束最小化に係る基準の見直しなど、患者さんを中心にした組織的な支援体制や医科・歯科連携や、医療・介護連携を求める改定項目も増えています。
また、入退院支援加算の算定対象見直しなども含め、病院内だけでなく、退院後の地域生活まで見据えた支援体制の重要性はこれまで以上に高まっているといえるでしょう。
今回の業務指針改定は、こうした医療政策全体の流れの中で、MSWに求められる役割を改めて整理したものであり、病院の役割の変化を表したものと考えられます。
今後は、MSWだけでなく、病院全体で患者さんの生活や地域移行を支えていく視点が、これまで以上に求められていくと考えられます。











医療機関等の管理者の監督の下に、社会福祉の立場から、専門的知識及び技術に基づき、医療・ケアに関わる多職種と連携して業務を行う者をいう。
(医療ソーシャルワーカー業務指針より抜粋)