仕事中に発生した事故によるケガや仕事が原因の病院に対しては、労働者災害補償保険(以下、労災保険)が適用になります。そして、患者さんが受診する病院が「労災保険指定医療機関」だった場合、原則として無償(窓口での支払金額はない)で治療を受けることができます。
したがって、医療機関として労災の患者応対をする立場になると、自院が労災保険指定医療機関か否かによって窓口での対応や会計の案内が変わる、ということになります。
窓口や会計を担当している方は実務上は問題ないかと思いますが、「労災保険指定医療機関」がどんなものか、患者さんや後輩に説明できますか?自信を持って説明できる方は少ないと思います。
今回は、窓口や会計業務に携わっている方、施設基準や労災を担当している方向けに、知っておきたい「労災保険指定医療機関」として、まとめることにしてみます。
「労災保険指定医療機関」とは?
厚労省のHP(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000060772.html)によると、「労災保険指定医療機関とは、労災保険法の規定による療養の給付を行うものとして、労災保険法施行規則第 11 条第1項の規定により、都道府県労働局長が指定する病院又は診療所のこと」と定義されています。
指定を受けるためには書類の提出が必要(詳細は後述)なのですが、
- 労災保険指定医療機関療養担当規程および労災診療費算定基準等の諸条項を遵守する
- 労働者災害補償保険法第13条第1項、第22条の規定による療養の給付に従事する
- 労働者災害補償保険法第29条第1項の規定による社会復帰促進等事業としてのアフターケア及び外科後処置に従事する
上記3点を承諾するものとして申請書を届け出ることになるので、内容について理解しておく必要があります(なお、アフターケア及び外科後処置については、担当しないことも選択可)。
※保険証が使える一般的な「保険医療機関」とは別のものです。
保険医療機関についてはコチラ↓
「労災保険指定医療機関」になるには?
労災保険指定医療機関になるには、医療機関の所在地を管轄する都道府県労働局に下記の必要な書類を提出し、都道府県労働局長による指定を受ける必要があります。
※内容は記事執筆時点で確認したものです。手続きをする際は最新の情報をご確認ください。
1.書類の準備・提出
下記の書類を準備し、労働局に提出します。
各都道府県の労働局の情報は厚労省のサイトを参照:都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)所在地一覧
【提出が必要な書類】
- 労災保険指定医療機関指定申請書
- 病院(診療所)施設等概要書
- 開設許可証
- 労災指定病院等登録(変更)報告書
- 知事届出事項に係る届出書の写
- その他労災診療費の算定に際して必要な事項の記載された書類(地方厚生局へ届け出た施設基準に関する受理通知の写し)
※申請書は、都道府県労働局(労働基準部労災補償課)への問い合わせ又は各労働局HPよりダウンロードでもらえます。
2.指定の通知を受ける
申請書を提出した労働局より、指定の適否の結果について通知がきます。「労災保険指定医療機関」の指定は、指定日から起算して3年間有効です。有効期日の6か月前から3か月前までに、医療機関からとくに申し出をしなければ、指定期間はその都度更新されます。
指定を受けた後は?
届出内容に変更が生じた場合や辞退等をする際は、下記の通り都道府県労働局への届出が必要です。
(3.変更事項の届出)
また、下記の内容が生じた場合、指定医療機関の開設者は都道府県労働局への届出が必要です。
- 指定医療機関の開設者又は管理者に異動があったとき
- 名称又は所在地に変更があったとき
- 診療科目又は病床数に変更があったとき
- 健康保険診療報酬の算定に関する届出事項等に変更があったとき(施設基準に係るものを除く)
- 提出した「病院(診療所)施設等概要書」に記載した重要事項等に変更があったとき
(4.廃止、休止または指定辞退の場合の届出)
医業の廃止、休止または指定の辞退により指定医療機関としての資格の存続ができなくなった場合、都道府県労働局への届出が必要です。
指定されるメリットは?
「労災保険指定医療機関」に指定されるメリットとしては、下記の3つが主に考えられます。
- 患者さん、地域のためになる
労災のケガや病気に対して治療を受ける場合、患者さんが労災保険指定医療機関に受診をすると治療費が原則として無償になります(医療機関は診療費を労働局へ請求して支払いを受ける)。
労災となるケガや病気に対しては健康保険よりも労災保険が優先されます。
したがって、医療費全額(10割)を支払う必要がない上に窓口での負担金がないという点は、患者さんの経済的負担という視点では大きなメリットになります。
また、普段の生活ではあまり意識はしないかもしれませんが、上記のように無償で治療を受けられる医療機関が自宅の近くにあるということは、地域住民として生活する上では安心感を得られるでしょう。
上記のように、患者さんや地域医療への貢献という点はメリットがあります。
- 健康保険よりも高い点数単価で請求ができる
労災診療費の点数単価は1点あたり12円(非課税医療機関の場合、1点あたり11.5円)です。
健康保険の1点あたり10円よりも点数単価が高いため、病院の収入が増えるという点もメリットも1つです。
- 「労災保険指定医療機関検索」に検索され、集患が期待できる
労災保険指定医療機関に指定されると、厚労省のHPに掲載され、患者さんが集まりやすくなります。
日常生活において、労災保険指定医療機関はどこにあるか、ということを気にする人は少ないと思われます。しかし、労災で受診を希望する時は、医療機関に関する情報をインターネットで検索する人は多いでしょう。
厚労省HPからリンクしているので、国が公表している情報だから信頼しやすい、という心理的な側面からも、集患への寄与は期待ができると思われます。
指定されるデメリットは?
反対に労災保険指定医療機関になるデメリットとしては、主に業務負担が挙げられます。
患者さんは書類の申請や書き方を含め、手続きに関してあまり知識を持ち合わせていないことが多いです(”まれに”ですが、記載内容に不備がある点を指摘して修正を依頼すると、「会社に言われたから持ってきただけ」「私に言われても分からないから会社の担当者に言ってくれ」と仰る方がいます)。
したがって、窓口で対応する場合は、医療機関のやるべきことを確認するだけでなく、患者さんのやるべきことについてもある程度の知識が求められます。
もちろん分からない点については会社の担当者に確認を依頼、あるいは労働局・労働基準監督署への問い合わせをするよう案内します。
しかし、スムーズな業務を目指すと、労災保険の仕組みや請求方法についての知識は欠かせないものになるのです。
まとめ
以上、これまで「労災保険指定医療機関」についての基礎知識として、
- 概要
- 指定を受ける方法
- 指定のメリット/デメリット
についてまとめました。
既に労災保険指定医療機関で実務で担当されている方、これから指定を目指す医療機関で担当する方の参考になれば幸いです。
用語の理解が深まると、事務連絡や公的文書が読みやすくなりますよ!