「入院中の薬の費用は入院料に包括されるけど、退院後に使う薬もすべて算定できないのかな?」
レセプトを作成する時、あるいは会計処理をする時に、そのような疑問を抱いたことはないでしょうか。
実は、薬剤料が入院料に包括されていても、条件を満たす退院時処方の薬剤料は別に算定することができます。
この記事では、退院後に使うために病院が処方する薬(退院時処方)を取り上げます。退院時処方を算定できるかどうかは、退院先や算定している入院料などによって異なります。今回はこの退院時処方に係る薬剤の算定を中心に説明します。
まずは、「退院時処方」の定義について確認しておきましょう。「退院時処方」とは、退院時に退院後に在宅において使用するための薬剤を指します。
退院後の次回外来までの間に自宅で使用する薬剤を処方するケースなどが考えられます。施設入所後に使用する薬剤については、施設の種類や入院料などに応じて取扱いを確認します。
本記事では、入院料を出来高で計算する場合から説明します。DPCで入院費を計算する場合は、独自の通知や疑義解釈があるため、該当箇所で補足していきます。
算定の通則:入院料に薬剤料が含まれていても、退院時は算定できる?
結論としては算定ができます。薬剤料を含む入院料でも、退院後に在宅で使う薬について、薬剤料のみを別に算定できる規定があります。
出来高は、診療の項目ごとに費用を計算する方法です。ただし、出来高であっても、すべての薬剤料を別に算定するわけではありません。まず、算定している入院料に薬剤料が包括されるかを確認します。
- 薬剤料が入院料に含まれない場合:医科点数表のF200「薬剤」など、通常の投薬に関する規定を確認します。
- 薬剤料が入院料に含まれる場合:その入院料における算定要件に加え、次の退院時処方薬の取扱いを確認します。
厚生労働省は、投薬の費用が含まれる入院基本料や特定入院料を算定している患者さんに、「退院後に在宅で使う薬を退院時に投与した場合、その薬剤料に限って別に算定できる」としています。ただし、「在宅医療に係る薬剤」はこの規定の対象外です。在宅自己注射などで使用する薬剤については、在宅医療の薬剤料(C200)など、別の算定規定を確認します。
参考:厚生労働省「医科診療報酬点数表に関する事項」第1章・第2部「入院料等」通則10「退院時処方に係る薬剤料の取扱い」
例:退院後も血圧の薬を飲み続ける患者さん
薬の費用を含む入院料(地域包括ケア病棟入院料など)を算定しています。退院後、自宅で継続して飲む薬を病院で処方しました。
この場合、通則10の条件を満たしていれば、入院中に処方する薬剤料が入院料に含まれるとされていても、退院後に使う薬の薬剤料は別に出来高で算定できます。
ここでいう薬剤料は、薬そのものの費用です。処方料や処方箋料とは別なので、退院時処方に係る診療報酬をまとめて算定できるわけではありません。
DPCで入院費を計算する場合の補足
DPC制度は、病気や治療内容などの分類に応じた1日当たりの決められた点数などで入院費を計算する仕組み(DPC/PDPS)です。
DPC制度にも、退院後に在宅で使う薬を退院時に処方した場合、薬剤料のみを別に算定できる取扱いがあります。
DPC制度における取扱いは厚生労働省「DPCの留意事項」第3の1(11)「退院時処方の取扱い」において示されています。医科点数表の通則10だけで対応せず、関連する通知の内容も確かめておきましょう。
薬を使う時期と場所を確認しよう
算定にあたっては薬を渡した日だけではなく、いつ、どこで使う薬なのかを確認しましょう。
例えば、入院中から飲んでいる薬を退院後も続ける場合でも、自宅で使うのか、転院先や施設の入所先で使うのかによって、算定可否が変わります。
- 退院後に自宅で使う薬:退院時処方の対象になるか、薬の種類や処方日数等を確認します。
- 退院日に渡しても、入院中に使う薬:退院時処方と区別し、算定する入院料の要件を確認します。
- 転院先や介護施設で使う薬:退院後に使う薬であっても、自宅への退院と同じ扱いになるとは限りません。
算定可否を確認する流れ
患者さんの退院時処方については、次の順番で整理すると確認漏れを減らしやすくなります。
| 確認すること | 具体的に見るところ |
|---|---|
| ① 退院後に使用する薬か | 使用開始日・使用する期間・使用場所。入院中に使用する院内処方と分けて確認する。 |
| ② 退院先はどこか | 自宅、他医療機関、特養、老健、介護医療院など。正式な施設区分、利用サービス、入所日を確認する。 |
| ③ 算定している入院料と適用される通知は何か | 出来高かDPC請求か。薬剤料が包括されるか。薬剤以外に算定している診療報酬に係る算定要件を確認する。 |
この表は確認を進める順序の例です。3点を確認すれば必ず算定できる、という意味ではありません。 退院先・入院料・薬の種類・使う時点を組み合わせ、該当する通知・算定要件の条件を確認しましょう。
退院先・入所先によって、算定可否が違う?
自宅に退院する場合
自宅で使う通常の薬は、適用される規定の条件を満たせば、薬剤料を算定できます。
自宅で使うことだけで判断せず、算定する入院料や薬剤の種類などを確認します。
ただし、すべての薬剤が退院時処方として算定できるわけではないため、在宅医療に係る薬剤とは分けて確認をしましょう。
DPCの場合は、前述のDPC通知の退院時処方の取扱いに従います。
他の病院へ転院する場合
DPC請求で入院費を計算する場合、転院先で使う薬は、退院時処方として別に算定できません。 厚生労働省の疑義解釈・DPC問10-1に回答があります。
出来高の場合は、退院元で算定する入院料の規定と薬の取扱いを確認します。
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム(特養))へ入所する場合
DPC請求で入院費を計算し、退院後に介護老人福祉施設へ入所する場合、退院時処方の薬剤料は別に算定できます。 厚生労働省の疑義解釈・DPC問10-9に回答があります。
出来高の場合は、算定する入院料と施設の正式な区分、薬の使用時点・費用の取扱いを確認します。
介護老人保健施設(老健)・介護医療院へ入所する場合
一律に算定できるとは判断できないため、必要な条件を整理し、慎重に確認していく必要があります。
これらの施設へ入所する患者は、施設が提供する医療保険と介護保険の給付調整、つまり、どちらの制度で費用を扱うかの調整が関係します。
入所前に渡したから、というだけで算定せず、施設で使う薬はすべて算定不可とも決めつけず、次を整理しましょう。
- 退院時処方薬の交付日・入所日・使用開始日と、使用する期間
- 算定している入院料と、薬の種類・用途
- 正式な施設・サービス区分と、その薬の費用を扱う給付の範囲
これらの情報を確認し、適用する通知や確認が必要な箇所を把握します。請求判断を保留することと、制度上の算定不可は別です。
関連する告示・通知を確認し、算定できるかどうかを判断していきましょう。
参考:厚生労働省「医療保険と介護保険の給付調整に関する通知」。施設利用中の給付範囲と、入所前の処方への適用を分けて確認します。
DPC請求で計算する場合の実務Q&A
ここでは、DPCに関する厚労省通知の疑義解釈を示します。
Q1.退院後7日以内に再入院したら、前回の退院時処方はどうなる?
DPCでは、所定の条件を満たして退院日の翌日から7日以内に再入院した場合、原則として一連の入院となります。退院時処方の薬剤料は、別の規定に沿って確認します。
診断群分類区分の上2桁が同じ傷病で、退院日の翌日を1日目として7日以内に再入院した場合、前回入院の退院時処方は、退院中に使った分に限って算定できます。
ここでは、病名だけでなく、DPCの「診断群分類区分」という分類コードの上2桁が同じかを確認します。退院した当日に、上2桁が同じ傷病で再入院した場合は、前回入院時の退院時処方は算定できません。 前回入院の会計の修正が必要となります。
Q2.入院中に残った薬を、退院後に使う場合は?
在宅でも使える残薬については、その残薬に相当する処方を中止した後、改めて退院時処方として処方することで算定できます。
入院中の処方で残った薬を、そのまま持たせれば算定できるということではありません。実務では、残薬に相当する処方の中止と、退院時処方としての再処方が記録されているかを確認しましょう。
Q3.退院日の前日・前々日に処方してもよい?
退院予定が決まっており、在宅で使う薬を前日または前々日に処方する場合は、正当な事情が認められることが要件です。
疑義解釈では、土曜日・日曜日の退院で、退院当日に薬剤部門の職員が休みである場合などが挙げられています。また、予定していた退院を取りやめたときは、その退院時処方の算定は取り下げます。処方の日付が退院日の前日・前々日であることだけで判断しないようにしましょう。
参考:厚生労働省「疑義解釈資料の送付について(その2)」令和8年4月1日、DPC問10-2〜10-4、PDF69頁・DPC-24
まとめ:退院時処方の薬剤料は、条件を満たせば算定できる
薬剤料が入院料に含まれる場合でも、条件を満たす退院時処方の薬剤料は別に算定できます。
実務では、まず次の順番で確認しましょう。
- 退院後に使用する薬か
- 退院先はどこか
- 算定している入院料と適用される告示・通知は何か
そのうえで、薬の種類・使用場所・使用開始日と算定要件を確認します。確認できない場合は、確認事項を整理していきましょう。
適宜、DPC請求で入院費を計算する場合は出来高と分けて関連通知を、老健・介護医療院に退院する場合は医療保険と介護保険の給付調整に係る通知を確認します。
参考資料(厚生労働省)
- 医科診療報酬点数表:第5部「投薬」第3節「薬剤料」F200「薬剤」
- 医科診療報酬点数表に関する事項:入院料等・通則10
- DPCの留意事項:第3の1(11)
- 令和8年度疑義解釈資料(その2):DPC問10-1〜10-4・10-9
- 医療保険と介護保険の給付調整に関する通知
※この記事は、病院が処方する退院時処方薬の薬剤料を中心に説明しています。院外処方箋や処方箋料、保険薬局での請求の詳しい取扱いは扱っていません。













